『怒り 』短評

怒り
原作吉田修一、監督李相日
要約はこんなかんじ。物語は一つの残忍な殺人事件が起こった東京八王子から始まる。犯人は現場から逃走し、その後顔を整形してどこかに行方をくらませた。事件から一年後、千葉、東京、沖縄でそれぞれ身元不明の男が現れる。その3箇所に現れた男たちはそれぞれ身元不明という共通点以外に、どこか1年前の事件の犯人と風貌も似ているのであった…。
まずテーマのひとつであろう、「身元不明」の人間の不気味さ。誰しも人には生きてきた道があり、他者にそれを知ってもらうことによって自分自身を理解してもらう、という節があるはずである。しかし、自らを知られることを根本より拒み、嘘をつき自分を偽り、社会に溶け込む。個人的な感想だが、僕にとっては恐怖そのものだ。この映画におけるキーポイントでもあると思うが、前半にて身元不明の男3人を登場させ、着地点のない恐怖を観客に植え付けることができたのではないかと思う。
他にもテーマは同性愛、沖縄米軍基地にまで転ずるのであるが実際どこまでが現実的で、どこまでが非現実的なのか想像がつかないのでここは割愛させていただきたい。
また、この作品は群像劇であるため場面展開は重要なポイントだ。群像劇あるあるだが、「え?今なんの話してんの?誰のものがたり?え?これで終わり?」という作品によく出会う。群像劇はそれぞれ別々の話がどこか繋がっていなければならないし、分割されるので話が浅めで終わりやすいという現象が起こりやすいと言える。しかしこの作品の良さはまさにそこにあった。カットが変わり、東京→千葉とか、千葉→沖縄とか場面が変わる瞬間の前後を絶妙の間やカットで繋ぎ合わせることができている。また、それぞれ3箇所における物語においてもしっかりと落としどころを作っている。社会的テーマを使っていることや有名俳優陣ばかりが出演しているということでこういった作品は重苦しい雰囲気になりがちなのだが、絶妙なテンポ感やストーリー展開が良いのでそれを緩和してくれているのだろう。
褒めまくってはいるが、もちろん、あれ?という場面もあった。まず、身元不明の人とそんなに一緒にいちゃいけないよ?もうちょっと話し合ったら?とか、これ見よがしに犯人だと思わせぶっちゃう(李監督はもしかしたらそういうの好きなのかな)展開してきたりだとか。
それでもそんなことは全然気にならない。前述したとおり、テンポ感が絶妙なので、とても2時間20分とは思えない作品。
しかし妻夫木くんと綾野剛くんのBLは個人的に、これはこれで1つの短編映画にしたらいいのに、なんて思ってしまった。(妻夫木くんが踊ってたクラブはどこにあるんかな)