「何者」短評

「何者」

監督:三浦大輔 原作:朝井リョウ

ネタバレだけはしないよう気をつけます。

原作は言わずと知れた直木賞受賞作。先に言っておきますと、僕はこの原作を読んでいません。ただ三浦大輔監督作品の「ボーズオンザラン」「恋の渦」は見てますし2作品とも大好きです。予習は予告動画のみ。まずはストーリー。さまざまな理由で就職活動を1年先延ばしにした男女四人を中心に繰り広げられる。彼らは学生生活を通して出会い、そして就職活動を共に励ましあいながら、情報共有をしながら行うために1人の部屋を《就活対策本部》とした。そして彼らはそこに集まって共に就活戦線を戦っていくのだがというお話。

好印象だった点をいくつか述べます。

まず一つはシーン展開。物語は単調に過ぎていくが、何か起こりそうだなと感じさせる前半と、前半に用意していた伏線をしっかりと回収していく後半いわばクライマックスに分かれる。後半に関しては前半をもう一度なぞる(回想に近い?)形となり、しかもそれは原作小説では行えない手法を用いた、映画ならではの進行であるため、非常に興味を惹かれるシーン展開である。

二つ目は小道具。劇中、小道具の一つとして用いられているのが「twitter」。あんな描き方したらtwitterの印象悪くなるんじゃないかと心配するくらい(すでに印象悪いか?)、いわばこの作品のトリックの一つとして用いられている。SNSやアプリという、形があるようでないもの、そういった媒体を小道具として用いるのは新鮮でよかったんではないかと思います。

三つ目は登場人物の少なさ、そしてそれらの役所がしっかり決まっていて俳優陣がそれに徹しきれているところ。非常にシンプルでそれぞれの登場人物の心情を理解しやすい仕組みになっている。特に僕は個人的に山田孝之さんが大好物なのですが、「あんなちょい役もったいない!」と思いつつも出番の少ない中、一言一言に重みのあるセリフを呟かれるのをみると、「適役!!」と思わず叫んでしまう僕なのでした。もちろん菅田将暉さん・二階堂ふみさんの演技も大好きで、逆にいうと彼らの演技あってこその作品だったのかな、とも思います。

他にも「う~ん」という点がないわけではありません。前半、物語の世界観が一向に拡がらないことはやはり気になりました。それでも後半のシーン展開で若干スッキリしましたけどね。その狭い世界観が大学生の就職活動を物語っているのでしょうか?

自分は7年前に就職活動をし、また今年転職活動をしていてたのでこんなタイミングでこんな作品に出会えたのはとてもありがたかったし、自分が何者になりたいのか、なりえるのか、なってしまったのか、を再確認させられるきっかけになりました。

『怒り 』短評

怒り
原作吉田修一、監督李相日
要約はこんなかんじ。物語は一つの残忍な殺人事件が起こった東京八王子から始まる。犯人は現場から逃走し、その後顔を整形してどこかに行方をくらませた。事件から一年後、千葉、東京、沖縄でそれぞれ身元不明の男が現れる。その3箇所に現れた男たちはそれぞれ身元不明という共通点以外に、どこか1年前の事件の犯人と風貌も似ているのであった…。
まずテーマのひとつであろう、「身元不明」の人間の不気味さ。誰しも人には生きてきた道があり、他者にそれを知ってもらうことによって自分自身を理解してもらう、という節があるはずである。しかし、自らを知られることを根本より拒み、嘘をつき自分を偽り、社会に溶け込む。個人的な感想だが、僕にとっては恐怖そのものだ。この映画におけるキーポイントでもあると思うが、前半にて身元不明の男3人を登場させ、着地点のない恐怖を観客に植え付けることができたのではないかと思う。
他にもテーマは同性愛、沖縄米軍基地にまで転ずるのであるが実際どこまでが現実的で、どこまでが非現実的なのか想像がつかないのでここは割愛させていただきたい。
また、この作品は群像劇であるため場面展開は重要なポイントだ。群像劇あるあるだが、「え?今なんの話してんの?誰のものがたり?え?これで終わり?」という作品によく出会う。群像劇はそれぞれ別々の話がどこか繋がっていなければならないし、分割されるので話が浅めで終わりやすいという現象が起こりやすいと言える。しかしこの作品の良さはまさにそこにあった。カットが変わり、東京→千葉とか、千葉→沖縄とか場面が変わる瞬間の前後を絶妙の間やカットで繋ぎ合わせることができている。また、それぞれ3箇所における物語においてもしっかりと落としどころを作っている。社会的テーマを使っていることや有名俳優陣ばかりが出演しているということでこういった作品は重苦しい雰囲気になりがちなのだが、絶妙なテンポ感やストーリー展開が良いのでそれを緩和してくれているのだろう。
褒めまくってはいるが、もちろん、あれ?という場面もあった。まず、身元不明の人とそんなに一緒にいちゃいけないよ?もうちょっと話し合ったら?とか、これ見よがしに犯人だと思わせぶっちゃう(李監督はもしかしたらそういうの好きなのかな)展開してきたりだとか。
それでもそんなことは全然気にならない。前述したとおり、テンポ感が絶妙なので、とても2時間20分とは思えない作品。
しかし妻夫木くんと綾野剛くんのBLは個人的に、これはこれで1つの短編映画にしたらいいのに、なんて思ってしまった。(妻夫木くんが踊ってたクラブはどこにあるんかな)